仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)292号 判決
控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴人が昭和二十五年七月三十一日附控訴人に対してした懲戒免職の処分を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、控訴人が昭和二十五年七月三十一日附懲戒免職処分の辞令書とその理由書とを被控訴人から交付されたのは同年八月二十三日である、控訴人は右処分を不服として昭和二十五年八月三十一日審査請求をし該書面は同年九月一日受理されたが、同年十一月一日被控訴人から被控訴委員会の審査に関する規則が制定されたとの理由で審査請求書再提出の要求があり、同月十七日控訴人は同請求書を再提出したのである。被控訴人から控訴人に対し昭和二十六年一月十三日口頭審査を開く旨の通知のあつたことは争わない。本件懲戒免職処分は被控訴委員会を開き適法に決議されたものではなく単に事務当局において作成した案を各委員に持廻りそれをそのまま決議とした違法の決議である。なお原判決書二枚目表末行から五行目以下に昭和二十五年十一月十九日と記載されているのは昭和二十五年一月十四日の誤記である、と述べ、被控訴代理人において、控訴人がその主張の日時に懲戒免職処分の辞令の交付を受けたこと、その主張の日時に審査請求をしたこと及び審査請求書を再提出したことはいずれも争はない、本件処分が持廻り決議であるとの控訴人の主張はこれを否認する、と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
(各立証省略)
三、理 由
控訴人は福島県公立学校の教員であつて、福島県伊達郡藤田町立藤田中学校長として在職していたものであるが、被控訴人福島県教育委員会は控訴人主張のような事由(原判決事実摘示の控訴人主張(一)乃至(七)の事由)により昭和二十五年七月三十一日附で控訴人を懲戒免職処分に付し同年八月二十三日免職の辞令書をその理由書とともに控訴人に交付したこと、控訴人は右処分を不服として同年八月三十一日被控訴人に審査の請求をしたが、被控訴人は昭和二十六年三月二十八日右審査請求を理由なしと判定し、その判定書を同年四月四日控訴人に交付したこと、以上の事実は当事者間に争がない。
控訴人が本件訴訟において被控訴人の控訴人に対する右処分を違法なりとする論拠は、
(一) 本件処分の事由として挙げられた事実は真実に副わず控訴人の行為は犯罪とならないのみならず不正行為ということもできないのにかかわらず被控訴人は控訴人に対して釈明、反証提出等の機会を全く与えることなくして誤つた認定をしたものである。
(二) 公務員を懲戒免職の処分に付するには、その公務員が犯罪の嫌疑のため起訴され、又は刑事事件について有罪判決を言渡された場合でなければならない。然るに控訴人はその所為について捜査当局の取調を受けたけれどもその結果起訴猶予処分を受けたに過ぎない。
(三) 被控訴人が本件処分を為すに当つて委員会のとつた議決手続は正式な議決に依らず持廻り決議の方法によつた。
(四) 仮に控訴人の所為が懲戒事由に当るとしても免職処分は重きに失する。
と云うのであるが、以上の中(一)、(二)、(四)の理由がないことについては当裁判所も原審とその判断(事実認定を含む)を同じくするからこれらの点に関する原判決記載の理由をここに引用する。(三)の主張は控訴人が当審で新に附加したもので以下にこの点について考察する。
成立に争のない乙第九乃至第十二号証、当審証人石原三起子同青木喜八郎の各証言及び当審における被控訴人代表者安藤武本人尋問の結果を綜合すると、控訴人に対する本件懲戒処分は次のような手続に依つて行われたことを認定するに足る。即ち、本件懲戒処分の事由として挙げられた控訴人の所為中の或るものについては犯罪を構成する嫌疑がかけられ、藤田町警察署及び福島地方検察庁において取調べられたが、昭和二十五年四月十三日不起訴処分があり、その後同年六月福島県教育委員会はこの問題を採り上げ控訴人を懲戒処分に付するのが妥当であるとの点について全教育委員間に意見の一致をみた。そこで教育委員会教育長(懲戒に関する議決の申請は教育長えの委任事項であつた)から福島県職員委員会に対し懲戒処分議決の申請を為し同職員委員会は同年七月三十一日控訴人を懲戒免職処分に付する旨の議決を持廻りによつて為し、教育長は同年八月十四日右の議決を教育委員会に報告し、教育委員会において同月十七日控訴人を免職する旨の発令をした。控訴人の再審査請求に対しては前示のように昭和二十六年三月二十八日附を以てこれを却下する旨の判定が為されたが、右判定書の作成に当つては教育委員一同が委員会室に会合して委員長からその理由の説明を受けた上で全員判定書に署名捺印したものである。以上の事実が認められ、この認定を妨げるに足る資料はない。
そこで右の手続が違法か否かを法令に照して考えるに、昭和二十五年七月三十一日当時施行されていた教育公務員の懲戒処分に関する法規は「教育公務員特例法」第十五条、地方自治法附則第五条及び第九条の規定に基き制定された「都道府県職員委員会に関する政令(昭和二十四年一月十二日政令第七号)第二条、「福島県職員委員会規則(昭和二十四年二月二十四日福島県規則第十号)」第六条に基く「福島県職員委員会会務処理要綱」等であるが、これらの規定に依ると、公立学校の校長及び教員に対する懲戒処分は任命権者たる校長又は教員の属する学校を所管する教育委員会がこれを行うのであるが、その懲戒の審査及び議決に関する事務は都道府県職員委員会が行うのであつて、同委員会の議決の方法は福島県においては前記「福島県職員委員会会務処理要綱」の規定するところに依れば、(イ)委員会長及び委員の出席によるもの、と(ロ)委員長及び委員が出席することなく、持廻りによるものとの二種類があり、懲戒事件の審議については原則として(イ)の方法によるべき旨が規定されているが、必ずしもこれに依らなければならぬものとはされていない。従つて県職員委員会が持廻りの方法によつてした右の議決はいまだ以て違法とするに足りないものというべきである。
以上の次第で控訴人の本件控訴は理由がないものと云わなければならない。
よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)